別の部屋から連れて来られた女は、何か見覚えのある女だった。
歳のころ30くらい、頭にうさぎの耳をつけ、ボンテージルックに
ニーハイブーツ。そんな女が麻縄で後ろ手縛りをされ、口にはギャグボールが
きっちりとはめられていた。
「このうさぎ女に見覚えがあるな。」と閻魔大王は言った。
「うーうー!」うさぎ女は何か言いたげだった。
しかし、閻魔大王は
「このうさぎ女は口から人を惑わす妖術を使うので、こうして猿ぐつわをしておる。」
と言う。
「貴様はわしの問いだけに、答えればよい。いいな。
もう一度聞く。このうさぎ女に見覚えがあるな。」
俺は死んでから現生での記憶が薄れたのか、思いだすのに多少の時間がかかった。
しかし、その顔は忘れもしないA女王様の顔だった。
俺はSMクラブで性的欲望を解消する変態男であり、現生ではそれを多少なりとも
恥じていた。彼女はその相手をしていてくれた女だ。
恥ずかしいと同時に、懐かしくも感じた。
「あなた!!」
俺が何か言おうとすると、後ろからまたもや聞き覚えのある女の声がした。
これはしっかりわかった。
振り向くと、俺より先に他界した妻のY恵の姿があった。
「Y恵!」
と懐かしさといとおしさのあまり、駆け寄ろうとするが
青鬼と赤鬼に取りおされられた。
Y恵も数人の鬼に捕まえられて、身動きが取れないでいる。
「はやく答えないと、この女を拷問にかけるぞ。」
と閻魔大王は脅してくる。
俺は混乱した。
何で正直者で善人のY恵がこのような地獄にいるのかということだ。
本来、天国に行くべき人間が、地獄におとされたのか?
ここは正直に答えるべきなのか、それとも嘘をつくべきなのか?
「このうさぎ女は自分の排泄物を男に食べさせ、更には拷問をし、
その上で性的快楽を与えていた。このうさぎ女はこれから地獄行きなのだが、
お前は自身の答えによって、これからの行く先が決まる。わかっておるな?」
閻魔大王は俺を睨みつけた。
じょうだんじゃない!地獄に行ってたまるもんか。
それにY恵は俺のせいで、ここに連れられてきたのではないだろうな。
本来、天国に行くはずだったのに、なんて可哀想なことだ。
「知りません。こんな女には会ったことがありません。」
すると、閻魔大王と鬼共はゲラゲラ笑いだした。
地鳴りがするほどに大きい声だった。
天地が切り裂かれるような恐ろしい音が、どこからともなく鳴り響く。
何かの審判が下りたようだった。
「お前は嘘をついたな。この世界では嘘はすべてお見通しだ。
本当のことを言えば、すこしはマシだったかもしれないものを。
夫婦共々なかよく地獄へ行け。お前の妻も地獄行きだ。
お前の妻は生前、お前に隠れて浮気をしておった。しかも一回ではないぞ。
不義密通はとくに重罪。お前よりも重い罪なのである!」
おわり。