よろこびのプロバガンダ。

10月 29, 2021

(注・このブログは2013年12月8日に下書きした、未公開記事です。)

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「いつか465号室でお逢いしたいですね」
と、初対面であるその男は微笑みながら言った。

「何ですか、それ。」
私はいつもの癖で切り返しに頭をこらしたけれども、男は私に考える暇を与えなかった。

「ああ、すみません。これ、僕のくどき文句なんです。僕が、ああ、この女と“いっぱつ”、
いや、ごめんなさい。抱きたいなと思う時に言う言葉なんです。でも、これはなかなか
出てきません。僕にとっては一大事だから。」
そういいながら彼は襟元を正し、上から下までねめつけるように見るのだから。

歌舞伎町は春の匂いがぷんぷんしていた。春の夜。
月が真っ二つに割れた下弦の夜。

「微笑みっていいですよね。僕、あなたの笑い顔が好きです。
ポップな感じ。でも、あなたの心は全然ポップじゃないんだ。」

彼と別れてから考えてみた。
465号室とはきっと「よろこび」の部屋なのだろう。

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