悪魔のようなプロパガンダ。

男はその女に対してむしょうに腹が立っている。彼女はそれを白だと思えば、
たとえそれが黒であっても白だと強引に納得させようとする女なのだ。そのくせ
彼女が言うことときたら気分次第ですぐに変わってしまう。
それも明後日の方向に。それから感情的であり喜怒哀楽が激しい。
男癖は悪く飽きれば何食わぬ顔で次々に男を変えている。
嘘をつくことなんてへっちゃらだ。しかし、嘘をつくなんてトンデモナイ、といったような
しおらしい顔つきでいつも男をあしらっている。
それから独占欲が強く嫉妬深い。男の浮気を勘ぐれば、証拠をつかもうとゴミまで漁る。
なんという狂気の沙汰。まわりくどい愛情表現。すぐに別れを切りだすのは男の愛情を
計るためなのだと、泣きながら縋りついてくる始末。彼女にはほとほと愛想が尽きた。
男は彼女が、何も喋らぬ人形にでもなってしまえばいいとさえ思う。
そう思うが、彼女の顔を見れば光輝くようにうつくしく男の性欲をそそるのだ。
それは、恐ろしいほどに。

こんな悪魔のような女を選んだのは誰だ?俺だ。俺が自ら望んだのだ。

引きさがることも進むこともできず、男は頭を抱える。しかしその時フト、ある文豪の逸話が
脳裏をよぎる。夏目漱石は「I Love You」を「月が綺麗ですね」と訳したとされる。
女はそうだ、月なのだ。女は愛しているなどと、口が裂けても言わないのだ。
全く違うことを言って男をはぐらかす。そんな不浄ないきものなのだ。
女の“どす黒い本性”を知れ。feminism なんぞくそを食らえ。男はそう自分に言い聞かせるが、
その晩もあっけなく女の足元にひざまづくのである。どうにもならない身体を震わせ、ときおり
涙をにじませながら。その様子をみるなり彼女はさも面白げに声を立てて笑う。男の肝っ玉を
握っているのは、他ならぬ彼女なのだ。そうして、彼女は何食わぬ顔で男にこう囁く。
「今晩は月が綺麗ですわね。」


A Y.M.O. FILM PROPAGANDA 1984